FIFAクラブワールドカップが始まりました。マイアミ、ニューヨーク、ロサンゼルスなど、アメリカ全土の12の会場で、32チームが参加し63試合が行われます。多くの人が熱狂し楽しんでいます。巨額の賞金が掛かっており、賞金総額は10億ドルを超え、シリーズチャンピオンには1億2500万ドルが授与されます[1]。
しかし、このような大規模イベントには、危険も伴います。ボストンマラソン爆弾テロ事件や、2024年ノースカロライナ州シャーロットで開催されたコパアメリカ準決勝[2]での乱闘騒ぎ、2025年ニューオーリンズで開催されたシュガーボウル[3]前のテロ攻撃といった悲惨な事件は、いずれも注目度の高いスポーツイベントのセキュリティ対策の必要性を示しています。
選手、観客、会場を守るには、物理的なセキュリティ対策とオープンソースインテリジェンス(OSINT)を組み合わる必要があります。法執行機関やセキュリティ専門家は、OSINTテクノロジーを活用することで、ソーシャルメディアの監視や意味的理解(Semantic Understanding)などの機能を通じて適切に状況を認識できるため、脅威をより正確に特定し、その脅威が現実化するのを防ぐことができます。
テロや銃乱射に対する安全確保が最重要課題である一方、OSINTプラットフォームのカスタマイズ可能な検索機能を利用することで、以下のようなケースについても、重大なセキュリティの脆弱性を明らかにすることができます。
- メディアや熱狂的なファンが、特定の選手が宿泊しているホテルを公表してしまった場合 ― OSINTプラットフォームは、こうした情報漏洩についてセキュリティチームに警告を発することができます。セキュリティチームはこの警告を受けて、ホテル警備の強化の必要性や、選手の宿泊先変更の必要性について判断することができます。
- ある中南米の国の大統領が、試合を観戦する計画を発表した場合 ― セキュリティチームは、適切な要人保護戦略を策定することができます。
- 試合当日のマイアミで熱波が予想される場合 ― セキュリティチームは、自治体の救急医療サービスと連携し、現場の体制を強化することができます。
OSINTプラットフォームの実際の活用状況
FBI、司法省、国土安全保障省などの連邦機関は、クラブワールドカップで大混乱が生じる恐れがあることを十分に認識し、地域および地方の機関や法執行機関と協力して、試合の警備計画を作成しました[4] 。これらの機関は、選手、観客、会場を守るために、自分たちで使える物理的手段やデジタルツールを総動員する必要があることを知っています。また、こうした対策は、試合前、試合中、試合後という時系列上の3つのポイントで実施しなければなりません。
物理的なセキュリティ対策(仕切り用フェンス、金属探知機、警備員の配置、警察犬、群衆管理プロセス、緊急対応プロセスなど)の重要性は、過小評価できません。OSINTは既存のセキュリティ対策を置き換えるものではありませんが、それを強化することができます。
試合前、法執行機関や警備会社は、OSINTソリューションを利用して、ソーシャルメディア、オンライン掲示板、報道機関、その他のサイトを監視し、攻撃の計画や破壊的行動の兆候を探ることができます。 この点は重要です。というのも、大量殺人犯や一部のテロリストはオンラインで計画を発表する傾向があるからです[5]。
これらの脅威は、意図が明白であることが多いのですが、特に優秀なOSINTプラットフォームのソーシャルメディア監視機能は、暴力発生の可能性を示す、よりかすかな兆候を見つけるのに役立ちます。例えば、誰かがスタジアムの正規スタッフに配布されるチーム関係者専用エリアの通行証を偽造して、販売目的で宣伝することがあります。もちろん、熱狂的なファンが自分のアイドルに会いたい一心で、こうした偽造品に手を出すことも考えられますが、大規模な殺戮を狙うテロリストが、スタジアムの支柱付近に爆弾を設置するためにこれを購入する可能性もあります。
試合中は、ソーシャルメディアの監視機能が、観客のモニタリングに役立ちます。観客は試合中に投稿することが多く、観客がどのような気分でいるのかについてインサイトを得ることができます。この情報は、群衆管理で生じる課題を予測し、セキュリティと対応計画を適宜調整するのに役立ちます。さらに、セキュリティの専門家が気づくよりも先に、観客がトラブルの兆候を見つけて投稿することもあります。
OSINTプラットフォームは、犯罪に関与している観客を発見するのにも役立ちます。
例えば、「15Bの座席から眺めを堪能中 ❄️❄️❄️❄️ #ClubWorldCup #MajorArena」という投稿があります。雪の結晶の絵文字は、コカインを表す隠語です。この投稿者は、どこでドラッグを購入できるかを人々に知らせている可能性があります。
試合後も、セキュリティ対策を継続する必要があります。テロリストなどは会場内の警備を恐れて、駐車場こそが攻撃を仕掛けるのに最適な場所だと考えているかもしれません。対立するファンの間で生じた口論が、スタジアム外での暴力に発展する可能性もあります。OSINTは、セキュリティチームがこれらの犯罪を防止し、悪質な行為が発生した際により迅速に対応するのに役立ちます。
Babel Streetにできること
AIを活用したBabel Street Ecosystemは、多様なデータセットを実用的なインサイトに変える、先進的な分析ソリューションを提供します。Babel Street Insightsは、何千もの一般公開情報および市販情報(PAI・CAI)の情報源を持続的に検索します。セキュリティ専門家や法執行機関に、会場やイベントの安全を確保するために必要なインサイトを提供するため、当社のテクノロジーは200以上の言語で公開されているデータソースを精査し、その結果をユーザーが選択した言語に翻訳します。
情報源には、10億を超えるトップレベルドメイン、市販の情報源、チャット、ソーシャルメディア投稿、オンラインコメント、掲示板で生成された実世界でのやり取りが含まれます。情報源の各カテゴリー内には、さまざまなプラットフォームが存在し、Insightsはそれらをすべてカバーしています。当社のテクノロジーは、主要なニュースソースとブログの両方を調査対象とし、主要なソーシャルメディアプラットフォーム、新興のプラットフォーム、非主流派や極右・左翼のプラットフォーム(暴力的な意図がしばしば表明される不快なタイプの掲示板を含む)を精査します。また、テキストベースのプラットフォームと写真・動画ベースのプラットフォームの両方を検証します。
さらに、Insightsは、ダークウェブ(標準的な検索エンジンではアクセスできないウェブサイト)を徹底的に検索します。ダークウェブへのアクセスに使われるツールは、匿名性が確保される仕様になっているため、ダークウェブは違法行為の温床となっています。ダークウェブ検索機能により、捜査員は通常は見ることができない投稿やその他の情報を調べることができます。Insightsの検索で見つかったデータを結合・照合することで、スクリーンネームと現実世界の個人や団体を結びつけることができます。
また、Insightsは、イベントの安全性を確保する上で非常に重要な、意味理解の機能を提供します。使用されている言葉に着目するだけでなく、その裏にある言葉の意図を読み解きます。ファンが投稿した「My club tore up Metropolitan Arena last night. Shout out to the whole team for making it happen!😊 😊 😊(昨夜は、うちのチームがメトロポリタンアリーナですごい試合をした。頑張ってくれた選手全員に感謝!)」というコメントは、精神的に不安定な人物が投稿した次のコメントと大きく異なります。「I’m going to tear up Metropolitan Arena tonight. I can’t wait to hear the team shout out🔫.(今夜メトロポリタン・アリーナをめちゃくちゃにしてやる。チームの叫び声を聞くのが待ちきれない)」他にも意味理解の機能は、新しい言語表現を理解するのにも役立ち、頭蓋骨、爆弾、剣の描写など、暴力を連想させる絵文字を検索することができます。
セキュリティの専門家は、ワールドカップの試合で暴力発生の可能性がないかを探るため、検索を行う必要があることは認識しています。しかし、どの検索語がトレンドなのか、なぜそれがトレンドなのかを常に把握しているとは限りません。そのような場面でも、Babel Street Insightsが役立ちます。当社のワードクラウドは、ソーシャルメディア上で使用される試合関連の単語やフレーズを視覚的に表現したもので、使用頻度の最も高い単語は、より大きくて目立つ字体で表示されます。セキュリティ担当者が、試合との関係で「storm(嵐)」という単語が頻繁に使われているのを見た場合は、さらに詳しく調べることができます。ファンが天気の心配をしているだけかもしれませんし、あるいは、「storm」という単語が、抗議行動や攻撃のプランを表すために使われていることが判明するかもしれません。
投稿数の急上昇を視覚化する機能も、その有効性が証明されています。Babel Street Insightsは、人々が会場や試合についていつ、どのくらい投稿しているかを表示できます。例えば、セキュリティの専門家が、試合のない日に投稿が異常に増えているのに気づいたとします。その場合は、数回クリックするだけで、その会話の内容を知ることができます。もしかしたら、負傷した選手のニュースがソーシャルメディアを騒がせただけかもしれません。あるいは、武装した銃撃犯が、試合前のイベントを襲撃したのかもしれません。
確かな実績
Babel Streetは、世界中の政府機関や民間警備会社と定期的に協力し、スポーツイベントなどの注目度の高いイベントの安全対策を行っています。2023年にラスベガスで開催されたF1グランプリの前には、会場、ドライバー、観客に対するリスクの洗い出しと軽減のため、民間の警備会社がBable Streetのテクノロジーを利用しました。この警備会社はBabel Streetの支援を受け、ラスベガスを拠点にイベントの妨害を計画していた個人のグループを特定することに成功しました。
最近では、政治集会開催中の治安確保のため、大規模組織を抱える大都市警察との協働も実現しました。参加者数が5万人を超え、抗議デモが予定され、都市環境も複雑であったため、OSINTを迅速に収集するための包括的なソリューションが求められていました。Babel Streetは、膨大な量のデータの収集・分析に必要な時間を大幅に短縮し、捜査員たちがデータ収集ではなく意思決定に集中することを可能にしました。これにより、警察は事件が起きる前に先手を打ち、潜在的な脅威に対処できるようになりました。
注目度の高いイベントをテロや犯罪、日々発生する不測の事態から守るのは困難なプロセスです。物理的な保護対策が引き続き重要である一方、Babel Streetのテクノロジーは、法執行機関やセキュリティの専門家にデジタル面での優位性をもたらします。すなわち混乱が生じる前にそれを察知し、対策を練る機会を得ることができるのです。
Endnotes
1. Pathak, Manasi, “FIFA Club World Cup 2025: Teams, full schedule, prize money, how to stream,” Al Jazeera, June 2025, https://www.aljazeera.com/sports/2025/6/12/fifa-club-world-cup-2025-teams-format-explainer-venue-final-messi-ronaldo
2. Collins, Ben, “Copa America – the party that almost became a tragedy,” BBC Sport, July 2024, https://www.bbc.com/sport/football/articles/c729vgyz9rdo#:~:text=Uruguay%20players%20then%20clashed%20with%20Colombia%20fans,Colombian%20and%20Uruguayan%20fans%20were%20not%20segregated.
3. Feurer, Todd, “Notre Dame vs. Georgia in Sugar Bowl postponed after deadly New Orleans truck attack,” CBS News Chicago, January 2025, https://www.cbsnews.com/chicago/news/notre-dame-georgia-sugar-bowl-new-orleans-truck-attack/
4. Gelston, Dan, “FIFA president Infantino promises ‘the world will be welcomed’ as Club World Cup preps for US debut,” Associated Press, April 2025, https://apnews.com/article/fifa-club-world-cup-infantino-09882372dccd58cfbf0068a9feeb6cda
5. Peterson, J., Densley, J., Spaulding, J., & Higgins, S., “How Mass Public Shooters Use Social Media: Exploring Themes and Future Direction,” Social Media + Society, accessed Julne 2025, https://doi.org/10.1177/20563051231155101